1物件1法人1金融機関スキームの問題点とは・・・

2018年から、レオパレス、かぼちゃの馬車、スルガ銀行、TATERU、サブリースなど不動産に関するあらゆる問題が噴出していることは、ご存知の通りであると思います。

その中で、ついに問題になってきたものが1物件1法人1金融機関スキームです。

実は、私が2018年9月に千葉大家倶楽部において、講演する予定であったものの一つです。実際には、台風が接近したことにより、中止になってしまい、お伝えする機会が失われてしまった状態でした。しかし、この度、問題になってきましたので、お伝えすることにしました。

2018年以前において、不動産投資の熱が高まり、また金融緩和策の後押しを受けて、不動産投資ブームとなりました。正直、ブームというよりも、バブルと言ったほうが正しいかもしれません。しかし、2018年に噴出した不動産におけるあらゆる問題により、金融機関が融資の蛇口を閉めてしまいました。この状況によって、不動産投資の熱はまだ冷めないものの、不動産を購入することができる人が限られてきました。これからは、この影響がさらに顕著にあらわれることになると推測します。今までがジャブジャブ過ぎたので、反動が大きいと言わざるを得ません。

このような中、問題になりはじめたものが1物件1法人1金融機関スキームです。

不動産を個人で購入する時に、金融機関から融資してもらおうと考えると、金融機関に対して、個人の資産、負債等を提出することになります。金融機関としては、個人の属性と物件の状況を把握し、融資しても問題ないという結論に達してはじめて、融資がおりることになります。

負債を隠していたとしても、金融機関等から借り入れをしていれば、信用情報から調べることができますので、隠しても無駄です。隠すことは意味がありませんので、やめましょう!むしろ、隠したという事実から融資の審査が通らなくなると考えられます。不動産は高額です。そのため、融資も高額になります。借り入れを隠すような人にお金を貸すでしょうか?結論は明らかです。

 

それでは、法人の場合にはどうでしょうか?

法人の場合も、原則として、個人の場合と同様です。金融機関等から借り入れがあれば、調べることができるので、負債を隠すことはできません。個人と異なるところは、個人であれば、確定申告書等になるものが、法人では決算書等になるということです。個人であろうと、法人であろうと、年間の損益と資産、負債について確認するということには変わりありません。書類の種類が違うだけです。

それでは、1物件1法人1金融機関スキームはどのように成り立っていたのでしょうか?

法人を新設する場合には、過去の決算書がありません。通常、過去の決算書がない場合には、融資しないことが多いと思います。しかし、それでは何も事業を行うことができないということになってしまいます。現実的には、新設法人の場合でも融資を受けることができる場合があります。それは、法人に融資する時に、法人の代表を連帯保証人に設定し、法人の代表を務めている個人の属性に問題がないと審査されれば、融資を受けることができます。これによって、新設法人でも融資を受けることができるというわけです。

1物件1法人1金融機関スキームは、

・新設法人には過去の決算書がないこと

・法人の代表を務める個人の属性に問題がないこと

巧みに利用して、融資を受け、不動産を購入していく方法です。

非常に危うい方法であると考えます。

1物件を購入するごとに1法人を新設し、金融機関まで新しいところで借り入れれば、いつも新しい金融機関と取引をはじめるわけですから、この金融機関には記録がありません。金融機関は、調べようがないわけです。しかも、今までは新設法人の代表が他の法人において代表を務めているかどうかを調べることはほとんどしていないでしょう。そうでなければ、このスキームは成立していません。

 

それでは、1物件1法人1金融機関スキームの問題点は何でしょうか?

まず、金銭消費貸借契約書には、次のように記載されています。

 

つまり、新設法人の代表であろうとも、他の法人において代表を務めており、連帯保証人になっている場合には、金融機関に告げるべきであると考えるでしょう。金融機関であれば、法人の代表を務める人を調べることは容易です。他の法人において代表を務めており、融資審査前に申告し、金融機関が問題ないと考えていれば良いかもしれません。しかし、他の法人において代表を務めていることを告げていなければどうなるかはわかりません。この解釈が非常に難しいところになります。金融機関としては、告げることは当然のことであり、告げていない以上、信頼関係を破綻させるきっかけを作ったのは、借り手側であると主張するかもしれません。この場合、一括弁済の主張が有効かどうかはわかりませんし、法的に一括弁済を問えるかどうかもわかりませんが、借り手側に一括弁済してくださいと言うかもしれません。

一方で、借り手側からすると、連帯保証人である個人が持つ資産と負債については、間違いなく申告しているわけですから、契約書に記載されていること以上を金融機関から求められていると主張するかもしれません。ただ、借りている側がどうしても弱い立場になると考えます。不動産を購入している場合において、資金繰りから考えて、一括弁済することは難しいでしょう。

最終的にどのような落としどころになるかはわかりません。各金融機関によって、考え方、方針が異なると思いますので、なんとも言えません。

考えられることは今後、新しい金融機関から融資を受けようと思っても、融資を受けることができなくなるかもしれません。

1物件1法人1金融機関スキームを行なっている方は、気をつけたほうが良いでしょう。自転車操業のパターンがしばしば見受けられるので、対策できないかもしれませんが、

対策としては、

・返済が可能である物件から返済を完了させてしまう。

・物件を売却する。

・法人ごと売却する。

 

・返済が可能である物件から返済を完了させてしまう。

早急に返済を完了してしまえば、問題はなくなります。ただし、金融機関が1物件1法人1金融機関スキームに気付いていて、あえて言ってこない場合には、今後融資してもらえない可能性はあると考えておくべきでしょう。

 

・売却する。

特に、デッドクロスをむかえる物件は、売却を検討したほうが良いでしょう。ただし、売却すると、債務が残る場合には、売却することを金融機関が認めてくれないので、注意が必要です。

 

・法人ごと売却する。

法人ごと購入してくれる人がいれば、問題ありません。ただし、融資を受けているので、法人ごと売却する場合でも、金融機関に伝えて、了承を得る必要があるでしょう。

 

2018年以前は、不動産であれば、なんでも融資していたような状態でしたので、1物件1法人1金融機関スキームで不動産を購入することができ、キャッシュフローを得ることができていたかもしれません。しかし、2018年に噴出した不動産におけるあらゆる問題から金融機関が融資をしづらい状況になってしまいました。1物件1法人1金融機関スキームの場合には、不動産を買い続けないと破綻する可能性がある自転車操業状態になりやすいスキームです。

1物件1法人1金融機関スキームのように、テクニカルなことに走ると、法律の改正、税制改正、相手方の方針変更などにより、足元をすくわれることになりかねません。テクニカルなことに走るのではなく、基本的なことから地道に学び、実践してもらいたいと考えております。

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