さんため契約とは・・・

みなさま、さんため契約をご存知でしょうか?

省略されると、なんだかわからないものは、世の中にはたくさんありますよね。

さんため契約は、第三者のためにする契約を省略したものです。

それでは、第三者のためにする契約とはどのようなものでしょう。

大まかにいうと、他人のものを売買する契約です。

まず、他人のものを売買する契約とはどのようなものでしょうか?

確認していきましょう。

例えば、

Aさん:土地の所有者

Bさん:売る人

Cさん:買う人

さて、Aさんが所有している土地をBさんがCさんに売却する契約は、契約として成立するのでしょうか?

他人のものを売って良いのか?

他人のものを売るなんてありえない!

他人のものを売る契約なんて無効だ!

といった声が上がりそうですね。

実は、Aさんが所有している土地をBさんがCさんに売却する契約は契約として、有効です。民法には、次のように記載されています。

民法560条【他人の権利の売買における売主の義務】

他人の権利を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。

いわゆる、全部他人物売買と言われているものです。民法で他人のものを売買する契約について、記載されているとはおもっていなかった方が多いと思います。

ここまでお読みいただいたみなさまであれば、次のように考えたのではないでしょうか?

CさんがAさんの土地を買うことができなかった場合はどうなるのか?

Bさんが勝手にAさんの土地を売った場合はどうなるのか?

Aさんが所有している土地をBさんがCさんに売却する契約は契約として、有効であるけれども、民法には次のようにも記載されています。

民法561条【他人の権利の売買における売主の担保責任】

前条(560条)の場合において、売主がその売却した権利を取得して買主に移転することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の時においてその権利が売主に属しないことを知っていたときは、損害賠償の請求をすることができない。

つまり、BさんがCさんとの間で、Aさんの土地を売買する契約を締結した場合、BさんがAさんの土地をCさんに移転することができなかった場合には、Cさんは契約を解除することが可能です。

CさんがAさんの土地ではなく、Bさんの土地であると思っていた場合には、Bさんが責任を取らなければならないということです。つまり、CさんがBさんに損害賠償することができます。Cさんが善意であった場合と言われるケースです。

CさんがAさんの土地であることを知った上で、Bさんと契約を締結した場合には、CさんはBさんに損害賠償することができません。Cさんが悪意であった場合と言われるケースです。

つまり、

他人のものを売買する契約は有効であるけれども、引き渡すことができなかったら、当然の事ながら、責任は取ってもらいますよ。

という考え方です。

ここで忘れてはいけないことがあります。善意と悪意の意味です。

日常生活では、善意は、親切心という意味です。

悪意は、他人に害を与えるという意味であることは周知のことと思います。

しかし、法律用語になると意味が異なります。

善意は、事実を知らないこと。

悪意は、事実を知っていること。

日常生活と法律用語で善意、悪意の意味が変わるということを理解することが必要です。

なぜ、善意、悪意の意味を理解することが必要なのでしょうか?

それは、善意、悪意で相手に求めることができることが異なるからです。

上記のCさんのケースにおいて、確認していきましょう。

Cさんが善意、つまり、Aさんの土地であることを知らずに、Bさんから土地を購入した場合です。

この場合、Cさんは、Bさんに対して、契約を解除することができます。さらに、Bさんに対して、損害賠償請求を行うことができます。

一方、Cさんが悪意、つまり、Aさんの土地であることを知った上で、Bさんから土地を購入した場合です。

この場合、CさんはBさんに対して、契約を解除することはできます。ただし、Bさんに対して、損害賠償請求を行うことはできません。

したがって、善意、悪意の違いは非常に大きな意味を持つ重要な事項であるということをご理解いただけたのではないでしょうか?

ここまでが、他人のものを売買する契約についての話です。実は、民法という法律に記載されていたことを知らなかった方も多いのではないでしょうか?

続いて、他人のものを売買する契約については、民法以外の法律にも規定されています。その法律が宅地建物取引業法です。

宅地建物取引業法には、次のように記載されています。

宅建業法33条の2

【自己の所有に属しない宅地又は建物の売買契約締結の制限】

宅地建物取引業者は、自己の所有に属しない宅地又は建物について、自ら売主となる売買契約(予約を含む。)を締結してはならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合は、この限りでない。

一  宅地建物取引業者が当該宅地又は建物を取得する契約(予約を含み、その効力の発生が条件に係るものを除く。)を締結しているときその他宅地建物取引業者が当該宅地又は建物を取得できることが明らかな場合で国土交通省令・内閣府令で定めるとき。

二  当該宅地又は建物の売買が第41条第1項に規定する売買に該当する場合で当該売買に関して同項第1号又は第2号に掲げる措置が講じられているとき。

上記の例でいうと、Bさんが宅地建物取引業者である場合には、民法では問題ありませんが、宅地建物取引業法では違反になります。

それでは、宅地建物取引業法の違反にならないようにするためには、どうすれば良いのでしょうか?

例えば、

Dさん:土地の所有者、売る人

E社:宅地建物取引業者

Fさん:買う人

所有権の移転の流れは次のようになります。

Dさん→E社→Fさん

所有権を移転する際には、登記することがほとんどです。登記するためには、登録免許税がかかります。売買の場合には、登録免許税は、固定資産税評価額の2%です。2%なら大したことないと考えがちですが、不動産は一般的に数千万円以上するものです。2%とはいえ、100万円程度かかってしまいます。

そこで、宅地建物取引業者は、自分たちが支払う登録免許税をなくすために、中間省略登記を行なっていました。

しかし、平成17年に不動産登記法が改正されました。この改正により、登記を申請する際には、登記原因証明情報を提出することが必須になりました。

つまり、権利が移転した理由を示す必要が生じたということです。

改正以前は、権利が移転した理由を示す必要がなかったのかと言いたいところですよね。

それでは、中間省略登記を行う方法はないのでしょうか?

中間省略登記を可能にするものが第三者のためにする契約です。

これでは、不動産登記法を遵守しているだけです。それでは、宅地建物取引業法上は、問題ないのでしょうか?

第三者のためにする契約において、全部他人物売買を行う場合には、宅地建物取引業法の例外になります。したがって、宅地建物取引業法上も問題ありません。

それでは、第三者のためにする契約とはどのようなものなのでしょうか?

例えば、

Gさん:土地の所有者、売る人

H社:宅地建物取引業者

Iさん:買う人

  • GさんとH社の間で、第三者のためにする契約を締結する。ただし、不動産の所有権をGさんからIさんに直接移転する特約条項を入れておく。
  • H社とIさんとの間で、全部他人物売買の契約を締結する。

これが、第三者のためにする契約(さんため契約)

H社のことをさんため業者と言います。

当然のことながら、第三者のためにする契約を行うことにより、宅地建物取引業者にメリットがあります。

まず、第三者のためにする契約ではなく、売買の仲介の場合を考えていきましょう。

Gさんの土地を5000万円で売却する場合、

H社の仲介手数料は3%+6万円になります。

したがって、H社の売り上げは、156万円+消費税です。

Gさん、Iさんの両者から依頼を受けた場合はどうなるでしょうか?

この場合、仲介手数料は、(3%+6万円)×2=6%+12万円になります。

したがって、H社の売り上げは、312万円+消費税です。

いわゆる、両手取引と言われるものです。

それでは、H社がさんため業者の場合にはどうなるでしょうか?

GさんとH社の間で、売買契約を締結するので、Gさんが売主でH社が買主の関係になります。

一方で、H社とIさんの間で、売買契約を締結するので、H社が売主でIさんが買主の関係になります。

GさんとH社との売買契約とH社とIさんとの売買契約は別々の契約であるため、

GさんとH社との売買契約における価格とH社とIさんとの売買契約における価格とが同じである必要はありません。

例えば、

GさんとH社との売買契約における価格が4500万円

H社とIさんとの売買契約における価格が5000万円

にすることは可能です。

この場合では、H社は両手の仲介よりも多い利益を得ることが可能です。

ですから、みなさまはH社は転売する業者といったイメージを持たれると思います。

それでは、第三者のためにする契約は、宅地建物取引業者が儲けるためだけのものなのでしょうか?

売主、買主にもメリットがあります。

売主のメリット:瑕疵担保責任を免責した状態で業者に売ることができる。

買主のメリット:さんため業者が2年間の瑕疵担保責任を負う。

ここで、瑕疵担保責任についてご存知でしょうか?

瑕疵という単語を日常生活で耳にすることはあまりないでしょう。瑕疵とは、キズや欠点のことです。法律上では、欠点や欠陥があることを意味します。

瑕疵担保責任とは、隠れた瑕疵があった場合には、売主は、買主に対して、損害賠償責任を負うことになります。そして、隠れた瑕疵とは、買主が一般的に注意するであろう箇所を確認した上で、注意しても発見できないような欠陥のことを指しています。ですから、欠陥のすべてが瑕疵になるわけではありません。とはいえ、買主も確認を怠ってはいけません。

瑕疵担保責任については、民法には、次のように記載されています。

民法570条【売主の瑕疵担保責任】

売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第五百六十六条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。

民法566条【地上権等がある場合等における売主の担保責任】

一 売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。

二 前項の規定は、売買の目的である不動産のために存すると称した地役権が存しなかった場合及びその不動産について登記をした賃貸借があった場合について準用する。

三 前二項の場合において、契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から一年以内にしなければならない。

瑕疵担保責任について、買主が事実を知った時から1年以内とすると、非常に長い期間について、売主が瑕疵担保責任を負うこととなります。

例えば、購入から10年経過した後に、瑕疵に気づいたとすると、瑕疵に気づいた時から1年になりますので、法律上は購入から11年でも有効ということになります。(実際に瑕疵担保責任が認められるか否かは各ケースによって異なります。)

しかし、上記の例では、売主は売却後、何年経過しても、瑕疵担保責任が生じている状況となり、現実的ではありません。したがって、実務的には、売買契約書には、引渡しから2年という記載がされることが一般的です。

瑕疵担保責任を免責にするとはどういうことだと思いますか?

もうお分かりだと思います。

瑕疵担保責任を取る必要がないということです。つまり、購入後に瑕疵が見つかったとしても、買主側の自己責任になるということです。

買主が業者であれば、瑕疵が生じそうな箇所について、わかっておりますし、瑕疵が生じたとしても、修繕等の費用の予測も可能です。ですので、売主に対して、瑕疵担保責任を免責しても、問題がないということです。

売主にとっては、売却した後でも、引渡しから2年の間に瑕疵担保責任を問われる可能性が残っているわけです。瑕疵担保責任を免責してもらえると、非常にありがたいわけです。

先ほどはメリットについてお話をしました。

メリットがあれば、デメリットもあります。

売主のデメリット:相場より安く売却してしまう。

買主のデメリット:相場より高く購入してしまう。

さんため業者自身で購入資金を用意できなかったとしても、買主が金融機関から融資の承認を受けることができれば、売買が可能になります。

ここまでお話をしてきましたが、実は重要な登場人物が抜けていることに気づいたでしょうか?すでにお気付きの方もいるかと思います。

不動産を購入する際に、現金一括で購入できる人はかなり稀であると思います。多くの場合、金融機関から融資を受けることになりますよね。

金融機関が融資を行う前に必ず審査を行っています。ですから、まず、不動産を購入する際に金融機関から融資を受ける時に、金融機関が行う審査の一般的な流れを知っておく必要があります。本コラムでは、一般的な審査の流れをお話します。各金融機関で審査に多少違いがあることは、ご理解ください。

物件の資産価値、収益価値、買主の属性、収入、自己資金等を審査して、過剰な融資にならないようにしています。それでも自己資金比率が低い場合には、過剰融資気味になりますので、買主としては注意が必要です。

様々な審査項目について、裏付けを取りますので、審査に時間がかかります。特に、投資不動産の審査は、金融機関の本部に稟議を上げることがほとんどですので、早くても2週間、長いと2ヶ月かかると言われています。さすがに、2ヶ月かかると、物件が売却されてしまったというケースもあるでしょう。

一般的な銀行の融資審査のスキームは次のようになります。

1.窓口(または担当者)が稟議書を作成する。

2.稟議書がOKなら支店の融資課長へ回付する。

3.次に支店の各課長(預金課、融資課、渉外課、外為課など)に回付する。

  融資案件は合議制のため、回付する必要がある。

4.副支店長・支店長へ回付する。

5.支店長決済が出て初めて、本部への稟議を回す。

6.本部稟議により、判断される。

7.上記を経過して初めて決裁がされて融資の承認が出る。

みなさまは、次のようなことを考えたことあるでしょうか?

さんため契約に際して、さんため業者と金融機関が関与しているなんてまさかないですよね?

さんため契約にさんため業者と金融機関が関与していた場合どのようになるでしょうか?

さんため業者と金融機関が関与していた場合、融資の上限額が売却価格になってしまいます。したがって、高値づかみすることになるでしょう。それでも、ローンを支払うことができればよいですが、フルローン、オーバーローンの場合には、支払うことが難しくなるケースが多々見受けられます。

なぜ、融資の上限額が売値になってしまうのでしょうか?

さんため業者と金融機関が関与していた場合の審査方法と金融機関が行う一般的な審査方法が異なるからであると言われています。

さんため業者と金融機関が関与していた場合の審査では、

さんため業者が投資物件の融資金額を金融機関に確認して予め売却価格を設定します。この時、必要とされる収入や自己資金などの「物件を購入できる買主の条件」も設定されていることがほとんどのようです。その後、条件に合う買主を見つけてきます。予め買主の条件が分かっているので、買主が見つかった時点で、すでに条件を満たした上で審査を行うことになり、非常に良い早く融資承認がおりるわけです。つまり、一般的な審査方法と比較し、審査も緩く、早いわけです。

また、某銀行は、支店長が決済するという話ですので、さらに審査結果が早く出るといった話もあるようです。

最後に権利移転は、どのようになるのでしょうか?

Gさん:土地の所有者、売る人

H社:宅地建物取引業者

Iさん:買う人

(1)GさんとH社の間で、第三者のためにする契約を締結する。ただし、不動産の所有権をGさんからIさんに直接移転する特約条項を入れておく。

(2)H社とIさんとの間で、全部他人物売買の契約を締結する。

H社がさんため業者であり、上記のようにGさんとH社、H社とIさんの間で別々の契約を締結しているさんため契約の場合、

所有権は、GさんからIさんに移転することになります。

H社に移転されることはありませんので、H社は登録免許税を支払う必要はありません。

さんため契約を理解していただくために、様々な前提事項を含めて、お話をさせていただきました。

他人のものを売買する契約について、民法に記載してあることを知らなかったみなさまもいらっしゃると思います。

さんため契約がすべて悪いわけではありません。適正に用いれば、売主、買主にとっても、メリットがある方法です。しかし、さんため契約というスキームを用いて、暴利をあげている業者がいることもまた事実です。

売主として、安く売却してしまった。

買主として、高く購入してしまい、ローンが支払えなくなってしまった。

このようなことがないように、大家さん、個人投資家には、自分自身を守るために、不動産に関する知識をつけ、信頼できる専門家を見つけてください。

(取り上げる例において、今回はご理解いただくことに主眼をおいて説明していきます。個別事案により異なる場合があります。)

認知症大家対策アドバイザー

岡田文徳

 

監修:

法務大臣認証日本不動産仲裁機構ADR調停人

ウェルスマネジメント株式会社

代表取締役 橋本晋一郎

http://sumai-wealth.com

 

任意売却コンサルタント

大友淳市

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