遺産分割前にお金を下ろすことができる?

民法改正に伴い、相続に関する様々な部分が見直されます。すでに施行されているものもありますが、ほとんどの改正部分の施工日は、2019年7月1日になります。

2019年7月1日に施行されるものには、次のようなものがあげられます。

(1)遺産分割等に関する見直し

(2)遺言執行者の権限の明確化

(3)遺留分制度に関する見直し

(4)相続の効力等に関する見直し

(5)相続人以外の者の貢献を考慮するための方策

 

今回は、

(1) 遺産分割等に関する見直し

について、お伝えしていきたいと思います。

 

2019年7月1日から遺産分割協議前であっても、一定程度の金額であれば、預金を下ろすことができるようになります。

 

え???

 

と思うかもしれません。

 

このようなリアクションを行なった方は、

おそらく次に示す3つのどれかであると思います。

  • 遺産分割協議って何?
  • 遺産分割協議が整わないと、預金を下ろせないの?
  • 遺産分割協議が整わなくても、預金を下ろせるようになるの?

 

遺産分割協議は、亡くなった方の相続財産を相続人でどのように分けるかということを話し合い、分け方を決めるものです。遺産分割協議の中で、相続人全員が納得すれば、遺産分割協議書を作成します。遺産分割協議書を作成し終わるまでが遺産分割協議といって、良いでしょう!

 

遺産分割協議書が作成されないと、金融機関は相続人が誰で、誰が預金を相続するのかということがわかりません。相続人であることは、戸籍謄本から確認することが可能ですので、相続人が金融機関に対して、法定相続分を引き出すことを要求することは可能であると考えられていました。しかし、遺産分割における裁判において出された判決によって、金融機関は、相続人から法定相続分を引き出すことを要求されても引き出すことを拒否することになりました。(判例の詳細は、参考HPをご覧ください。)

 

金融機関としては、預金を引き出された後で問題が起こると、金融機関の対応が問題であったのではないかと言われかねません。特に、相続人同士でもめていた場合、預金を引き出されたことが原因でもめた場合など当事者ではないにもかかわらず、金融機関は揉め事の火中に引きずり込まれるわけですから、遺産分割協議が整った後でなければ、預金を引き出すことができないようにせざるを得なかったと言えるでしょう。

 

遺産分割協議が整うまで預金を下ろすことができなくなると、困ることがおきます。

例えば、

亡くなった方と同居していた配偶者の場合、生前において、亡くなった方の口座からお金を下ろして生活をしている可能性はあります。夫婦生活のための口座を片方の名義にしていることはよくあることです。

また、葬儀費用などは、生活費に比べれば、高額な支払いになります。そのため、預金を亡くなった方の名義にしている場合には、お金を下ろすことができませんので、葬儀費用を支払うことができなくなります。お金はあるけれども、口座からお金を引き出すことができなければ、支払うことができない。口座からお金を引き出すためには、家庭裁判所の判断が必要でした。

 

このような事態を避けるために、2019年7月1日施行の

“遺産分割等に関する見直し”

によって、民法を改正するわけです。

改正によって、家庭裁判所の判断を経ることなく、法定相続分の1/3までは、預金を引き出すことができるようになります。これで、葬儀費用の支払いや当面の生活費をまかなうことができるというわけです。ただし、1金融機関から引き出すことができる金額は、150万円までと決まっています。

 

しかし、法定相続分の1/3までは、預金を引き出すことができるとはいっても、その後に行う遺産分割協議で揉めることはあると思います。法定相続分の1/3まで預金を引き出すことによって、遺産分割協議において、ある相続人に分ける分が不足した場合は、相続人間で対応することが必要になるということでしょう!

 

制度改正によって解決するところと制度の改正を行なっても解決できないところがあります。制度の改正を理解し、対応することは必要であると考えます。制度の改正ではなんともできないことはいくらでもあります。制度の改正の改正に問題があるように言われますが、そうではないと思います。特に、相続に関する問題においては、遺産分割の問題ではなく、家族間の問題であることがほとんどです。

 

実際に、遺産分割協議が整うまで預金を下ろすことができなくなるということがわかっていれば、生前に対応しておくことは可能です。預金だけのために、家族信託®を使うかどうかは、考える必要はありますが、目的をしっかりさせるべきであると考えます。

  • 状況を把握する
  • 目的を決める
  • 対応するために行動する

重要であると考えます。

認知症大家対策アドバイザー

岡田文徳

 

参考:

2019/6/1 6:30 日本経済新聞 電子版

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45502830R30C19A5PPE000/

 

法務省HP

http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00222.html

 

平成27年(許)第11号遺産分割審判に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件

平成28年12月19日大法廷決定

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/354/086354_hanrei.pdf

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