インスペクションは普及しないのか?

インスペクションが普及しない理由の前に、そもそもインスペクションとはどのようなものでしょうか?

インスペクション(inspection)とは、辞書的な意味でいうと、視察、検査などを意味します。元々の意味を不動産業界に置き換えると、不動産業界においては、建物調査のことを意味します。建物がどのような状態であるか?ということを把握することは非常に重要です。建物の状態がわからなければ、どのような対応、対策を行うべきであるか?がわからないからです。

なぜ、インスペクションというものが話題になっているのか?ということを考えてみましょう!

特に、東京近郊では、高度経済成長に伴い、住宅が不足したことと住宅を取得することができるようになったことから、宅地開発や住宅開発が進められました。新築を購入することで初めて一人前と認識されるような時代であったと思います。現在でも、税制においては、住宅ローン減税などがあり、新築に有利な状況です。

このような状況になると、住居を購入する場合には、新築という流れになりますので、賃貸不動産においても、新築に住みたいと考える人が多くなるという傾向にあります。設備が新しいということもあげられるとは言え、新築の物件の方が中古物件に比べて、高い賃料で貸すことができます。新築神話と一定良い状況です。

住宅のストック数は十分であることに対して、なかなか中古住宅が流通しないことと新築神話という状況において、空き家が増加しています。

そこで、政府としては中古住宅を流通させるために、施策を打たざるを得なくなったということです。

しかし、それでもなかなか中古住宅が流通しません。

その理由は、

売主にとって、高齢であれば、所有している不動産を売却してしまうと、相続時に相続税が多くかかってしまうため、売却したくても売却できないという事情があります。場合によっては、小規模宅地等の特例を使うこともできるかもしれないからです。市場に売却物件が出てこないことはやむを得ません。

一方で、買主にとって、中古住宅の欠陥が怖いということがあげられます。

そういうことであれば、インスペクションを行い、中古住宅を流通させやすくしようという考えです。インスペクションは、イギリス、アメリカ等では、すでに導入されている方法です。

わが国では、インスペクションについて、2018年に宅地建物取引業法が一部改正された時に記載され、施行されています。国土交通相としては、インスペクションを行なった不動産の流通が促進されることを期待していたようですが、インスペクションが行われた不動産は、流通戸数の8%であったとの統計データが発表されました。まだ1年しか経過していないので、インスペクションが普及していないことは、やむを得ないと思いますが、インスペクションの普及のためには、課題が多いと考えます。

  • 誰に依頼すれば良いのか?
  • 責任を持ってやってくれるインスペクションの業者は誰なのか?
  • 建物のどの部分までやってもらえるのか?
  • 建物のどの部分まで、インスペクションしてもらうべきなのか?
  • 誰がインスペクション費用を払うのか?売主か?買主か?折半か?
  • 売主がインスペクションを依頼すると、インスペクション業者と癒着しないか?
  • インスペクションで欠陥が見つかった場合には、修繕しなければならないのか?
  • 修繕費はどちらが負担するのか?
  • インスペクションを行い、重要事項として、説明した場合でも、瑕疵担保責任を問われる場合があるのか?
  • インスペクション業者がどこまで責任を取ってくれるのか?

課題は多いものの、買主にとってはメリットがあるものと考えます。買主にとっては、購入後所有するわけなので、インスペクションを行った物件の方が安心して購入することができる。修繕の計画を立てやすくなります。賃貸不動産であれば、事業計画を立てなければなりませんので、今までよりも正確な事業収支計画を立てることができるようになると考えます。

一方で、売主にとって、インスペクションを行うことで、想定していなかった費用がかかるのであれば、売買価格に反映したいということになります。

果たして、売買価格に反映されるかというと、まだなんとも言えないところですが、通常は売買価格に反映させて、交渉することになるでしょう。また、インスペクションを行うためには、時間がかかります。インスペクション自体は、1日で終了するかもしれませんが、日程調整等を考えなければなりません。

インスペクションが普及しない理由は、売主、買主、宅建業者の三者にとって、メリットとデメリットがわかりづらいということが原因ではないか?と考えます。

ただし、この根底にあるのは、そもそも論でいうと、売ってしまえば、終了という考え方であるということです。この考えは、どんどん新築を建築し、売るということにつながります。我が国は、すでに住宅が余っている状態ですので、新築する必要が本当にあるのか?ということは考えなければならないと思います。中古住宅を活用していくことも増えていくことになると考えます。すると、中古住宅の流通は、増えていくと思いますので、インスペクションを活用していくことが増えていくと考えられます。

もしかしたら、金融機関から融資してもらう時に、インスペクションの有無が審査基準になったと告げられることがあるかもしれません。

ですから、インスペクションというものがあるということは、覚えておいて損はないでしょう!

認知症大家対策アドバイザー

岡田文徳

 

参照:

国土交通省

住まい方の変化

http://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/h24/hakusho/h25/html/n1222000.html

中古住宅の流通促進・活用に関する研究会

http://www.mlit.go.jp/common/001002569.pdf

空き家の現状と課題

http://www.mlit.go.jp/common/001125948.pdf

宅地建物取引業法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令」を閣議決定

http://www.mlit.go.jp/report/press/totikensangyo16_hh_000143.html

既存住宅状況調査の実施状況に関するアンケート調査結果

http://www.mlit.go.jp/common/001267278.pdf

国税庁

No.1213 住宅を新築又は新築住宅を取得した場合(住宅借入金等特別控除)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1213.htm

関連記事

  1. 営業を再開したジムに行ってきました
  2. 本年は大変ありがとうございました。
  3. 家賃減額を交渉された大家さんが行うべき対応
  4. 家主と地主にインタビュー記事が掲載されました
  5. 家族信託に関するセミナーに登壇しました(足立区生涯学習センター主…
  6. 新築1Rによる所得税の節税スキーム??
  7. 防犯対策の最前線:賃貸不動産業界がSPsの講義で学ぶ 〜第16回…
  8. 幻冬舎ゴールドオンラインにおいてコラムを執筆させていただきます

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

PAGE TOP